ギャルズタウンのお好きな街にあなたのサイトの看板を出せます。 ギャルズタウンをご利用いただいているレジデントの皆様に参加していただきたいです。 21000人以上の皆様にご利用していただいている無料サービスです。 ギャルズタウンのヘルプ委員、メイヤー、レジデントの皆さんが真心を込めて作ってくれたヘルプページです。 ギャルズタウンの案内ページです。 商用サイトを運営なさっている方のための相談・提案サービスです。
ギャルズタウンの総合トップページへ!
Click here to visit our sponsor

  神箭手・高飛鴻

(2)

 刀刃の水平な青い線が、志麟の黒眸を遮っていた。見事なまでに研ぎ澄まされた薄い刃が、見る者の背筋を凍らせるだろう。
 刀(タオ)はもともと馬上で使用される物を長刀とし、刀柄が短い物を短刀という。剣と違って片刃であるが故に、「突く」用法を持つ剣と異なって「斬る」意味合いが判然とした武器である。
 その短刀を名乗る前から突き付けられたというのは、些か物騒な話だった。
「通して頂けませんか?」
 志麟は、静かに男に向かって言った。男は、私兵に混じっていた隻眼の男だった。近寄って見ると、遠目で見る以上に背が高く痩せていた。まるで何か幽鬼にでも取り憑かれているかのような顔色だった。
「その前に一つ訊きたい事がある」
 と、男は低い声音で言った。
「何でしょう?」
 志麟は全く動じない素振りで言った。両手は無防備に腰の上に垂れ下がっていた。少しでも剣の柄を握る素振りでも見せたなら、目の前の刀刃が志麟の視界を奪うだろう。
「貴公達が請負ったその仕事、それは本来我々が与ったものだった」
 男は言った。
「私らにおはちが回って来たということは、貴方がたがしくじったという事ですか?」
 男は、志麟の不躾な物言いに怒りを表すでなく、只沈着に否定した。
「たかが孩子の一人と思うは浅はか。忠告ではないが、これが異様な幻術を使うてすばしこい」
 ははん、と志麟は目を瞬いた。
「そんな事私らに言って聞かせたって。報酬金のうち幾ら欲しいんですか?」
 男は手首を捻った。刀刃は、滑るようにして志麟の顎の下へ入り込んだ。ほぼ紙一重で、刃が皮膚に並ぶ。産毛がちりちりと金気(かなけ)を帯びて、志麟に緊張を強いた。
「む」
「見くびるな。そんなもの欲しさに助言するのではない」
 男の声は厳しかった。息がやや乱れていた。
「…では、何故?それ程の腕がおありなら、貴方がやればいいでしょう」
 志麟が言い終えないうちに、刀身が離れた。男は幅広の刀を鞘に仕舞った。
「それが可能なら、今頃どうにかなっているだろう」
 男はそう言うと、何事も無かったかのように去って行った。志麟は、男が向かった方向に首を捻った。その時、組紐できつく結わえていた筈の冠がぱさりと落ちたのだった。

 さて本章は他でもない、高輝鴻の出自について述べておかねばならなかった。当の本人は、《水仙楼》という妓楼で紹興酒をかっ喰らって妓女をはべらせているので、ここに代述するとしよう。
 粛州とは、現在の中華人民共和国は甘粛省の西部に相当する。明代は陜西と呼ばれていた地区で、内蒙古自治区に接する土地である。この頃は、その辺りは韃靼人の住む地域であったようだ。
 所謂、タクラマカン砂漠と天山山脈をつなぐ天山南路沿いの街であり、少し西へ行くと敦煌がある沙州衛である。唐代に西域都護府が置かれて以来、商業で栄えてきた。最も西にある安西都護府は、唐代は亀茲(きじ)まで移されていた。今の新疆ウイグル自治区、庫車(クチャ)県である。
 明代はそこまで領土を広げる余裕は無かった。嘉峪関(かよくかん)以西はチベットとカシュガル汗国の土地であった。
 高輝鴻が生まれ育ったのは、国境の町だったのである。
 祖父・高沙駒(コウ サアクイ)は、もともと粛州の人ではない。
 「高」という名字は、元々高麗系の人間がよくつけたものである。
 だが、こちらの「高」一族は、ウイグル語の音を由来にして漢字化したものと考えられた。
 その沙駒の父はサマルカンドから来たというから、明らかにトルコ系民族である。しかし、沙駒の妻はさらに北のカザン汗国の人だった。
 今から考えても随分と広大な国際結婚だったに違いない。ただ、彼等西域の商人はそんなことには拘らなかった。
 旅商というのは、非常に危険を伴う仕事であった。劫盗などは日常茶飯事であり、そのために非力な商人は命を落とす。死にたくなければ生き残る術を身に点けねばならなかった。武術に長けた商人も少なくなかったが、その才がある人間ばかりではない。護衛を雇って旅をするという商人も多い。
 もとは高沙駒も護衛を生業としていたのだが、ひょんなことから商才に目覚め、武装商人として生活するようになった。
 当然、このような生活で深窓の令嬢を娶ったのでは仕事にならない。従って肝っ玉と腕っ節のいい女であれば、人種はとやかく言われなかったのである。

(3)に続く
(1)に戻る

中国的ばけらったへ戻る

戻る