ギャルズタウンのお好きな街にあなたのサイトの看板を出せます。 ギャルズタウンをご利用いただいているレジデントの皆様に参加していただきたいです。 21000人以上の皆様にご利用していただいている無料サービスです。 ギャルズタウンのヘルプ委員、メイヤー、レジデントの皆さんが真心を込めて作ってくれたヘルプページです。 ギャルズタウンの案内ページです。 商用サイトを運営なさっている方のための相談・提案サービスです。
ギャルズタウンの総合トップページへ!
Click here to visit our sponsor

  海嘯濂濂

(2)

 戴志麟、高輝鴻が共に応天府にいた時である。七月下旬の頃であった。宿で夕餉をとっていると、突然公服を着た朝廷の役人がずかすかと二人の前に現れた。
 お前何かやったのかよ、と互いに肘でどつき合っていると、一人の緋袍を身につけた官人が前に歩み出た。緋袍というと官位一品から四品の高官である。ちなみに五品から七品は青袍、八、九品は緑袍であった。「青衣の人」というと下っ端役人を指すのである。
「御両人にお頼みしたい事がございます」
 と、その役人は恭しく言った。
 だが、
「私は朝廷の為に使う労力など、持ち合わせておらんのでな」
 用件を聞く前から輝鴻は官人の言葉を跳ね除けた。官吏達は一斉に殺気立った。しかし、輝鴻はやめなかった。
「帰れ老公(ロウコン)、飯が不味くなる」
 まさかこうまで言われるとは思ってなかったのだろう。緋袍の男は唇を噛み締めて怒りを堪えるのに必死のようだった。
 老公とは宦官のことである。宦官は中国史上名高い制度の産物。男性機能を失った官吏である。尾篭な話だが、宦官は去勢されているので、施術後は尿道の締りが悪く、小便をちびる事が多い。
 それも長期間になると折檻されて強制的に直されるのだが、よく中国人は「宦官は半里(1里は当時約0.5km)も先から臭う」と言ったものである。
「止して下さい、兄弟子」
「何を言われたって、出世の為ならどうってことない連中さ」
 宦官らしい緋袍の男は、表情を取り繕って言った。
「用件は今ここでは申せません。何分重要にて報酬金は五千両。後ほど杭州へお越し願いたいのです」
 五千両、と聞いて二人は顔を見合わせた。現在の日本円でいうならば、さしずめ約五千万円という破格の報酬である。心の動かぬ人間はまずいまい。
「どうします?高大哥」
 志麟が耳打ちした。
「ううむ。着いてから考えるという手もあるが」
 これは前渡で、と宦官は錦の袋を差し出した。銀子がざっと三十両程入っていた。志麟は、もしかしたらこの話はお流れになるやも知れないと思っていたので、袋に手を出す気にはなれなかった。
 だが、「そりゃどうも」といともあっさりと受け取ったのは兄弟子だった。志麟は唖然となった。それで抜け抜けとこう言ったのである。
「お引き受けしよう。―これでいいんだな?」
 宦官は髭の無い口許に皺を作って、笑顔を見せた。
「然様で。では後ほど杭州で浙江都指揮使司・霍希錦提督がお待ちしています。二ヵ月後にお越し下さい」
 そういって宦官一行は去って行った。去り際に、誰かが「吃狗糞、無頼胡(くそくらえ、毛唐め)!」と呟いたのが聞こえた。
「何です?その掌返したような態度は!」
 官人達が見えなくなるや否や、志麟は卓を叩いて立ち上がった。
「『官人の依頼など死んでもやるか』って言ってたのは高大哥、貴方でしたっけ!?」
 志麟が思い切り軽蔑の眼差しで睨め付けると、輝鴻は口笛を吹いて銀子をちゃっかりと自分の懐に仕舞った。
「杭州見物に行きたくなっただけだ。南の女はイイというしな」
 思えばその時の安請け合いは何だったのだろう。志麟は輝鴻を恨みがましく見上げた。
 その弟弟子の考えを見抜いたかのように、輝鴻は振り返った。
「心配するな。仕事はするさ。前金の銀子も使っちまった事だしな」
「何だって?」
 志麟は目の玉が飛び出る程に驚いた。
「いったい何に使ったんですか?怒りませんから言って下さいってば」
 志麟は、自分より遥かに背の高い輝鴻の襟元を掴み上げた。
「怒りませんって、お前目が血走ってるぞ?」
「博打ですったのか、妓楼か。何でも構わないんですけどねぇ」
 志麟は、ねちねちと兄弟子を攻め始めた。こうなると、さしもの輝鴻も何だか奮わない。まるで古女房にでも諌められているようで、悪漢相手のようにさばさばと反撃出来なくなってしまった。
「言ったところで三十両は返って来ないぞ」
「いいんです、正直に言ったら私だって許してあげますって」
「そんな目で言うなよ。あ、いてててて」
「このお口で言ってみて下さい!」
「い、言えるか痴郎(バカ)!いでででで!」
 輝鴻は、思い切り口の端を抓り上げられた。銭塘江の夜は更け行く。遥か山際で就寝の梵鐘が響いた。


(3)に続く
(1)に戻る

中国的ばけらったへ戻る

戻る