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シャトー・シュデュイロー

 グラス越しに見た女の若い面差しは、彼によく似ていた。練りたての飴のような美しい金髪に縁取られた卵型の顔には、怒気が満ちていたが。
 最近思うのだ。動物の世界では、とりわけ魚類や鳥類ではオスの方がメスよりも美しいといわれる。だが、人間もそれと同じなのでは、と。彼に似た女の顔は、確かに一際人目を引くほど整っている。鶴みたいな首も長い手足も。誰だったか、昔タランティーノという監督の映画によく出ていたスレンダーなハリウッド女優がいたが、似た雰囲気だ。私ほどの色気とおっぱいのボリュームはないけどね。
 しかしその薄く刷いたようなオレンジ色のアイシャドウやリップグロスを落としてしまえば、きっと彼の方が美しいだろう。私など足元にも及ばない。
「貴女が兄貴を唆した、ヤリマン性悪女」
 と、彼女は自分の前髪に長い指を翳して明け透けに言った。
 指の造作も彼に似ている。妙齢の女なのに、不自然なまでに短く切り揃えられた爪も。
 私はまたしても、仕事の手を休めなければならなかった。一週間前にボスに提出する筈の報告書がまだ出来ていないのだ。
 男は間抜けな生き物だ。どうせ寝言で私の名前でも言ったのを、詮索好きな妹に根掘り葉掘り訊かれて喋ったに相違ない。正直の前にバカがつくと、タダのバカになる。
「そういうアナタこそ、実の兄貴と寝る、さかったメス猫」
 洗練された会話に聞き耳を立てる輩も少なくない。何しろ一応の美女二人の剣呑な場面など、退屈な田舎町のオープンカフェでは滅多とないからだ。これが不細工同士なら話にならない。
「それの何処が悪いのよ?」
「偏食は良くないわ。いろいろなちんぽを味見してこそ、女の人生なのに」
「余計なお世話。あたしは血を噴くまで搾り取る悪魔みたいな女の顔が見たかっただけよ」
 彼女は冷ややかに私を睥睨するのみ。尤も、思う気持ちが判らないでもない。彼以上の男の味となると、なかなか稀少かも知れないのだから。
 私はペンを走らせながら、傾けていたグラスを彼女の前にかざした。
「アナタも一杯どう?」
 グラスには太陽の光を溶かし込んだ液体が揺れていた。[シャトー・シュデュイロー]とは、ソーテルヌ地区で生まれた極上の滴。別格最上級の[シャトー・ディケム]を凌ぐ、濃密な黄金の輝きを持つ貴腐ワイン。まるで数億年の時間を閉じ込めた琥珀の色彩に、焦がしたリンゴの香りがする。
「仕事中にアルコールを入れるなんて随分余裕なのね」
 彼女は、蜂蜜のような甘い誘惑には全く興味を示さなかった。
 私はグラスを下ろした。所在無く柄を握り、とろりとした液体を回すだけだ。
「糖分補給しないと頭が腐るからよ」
 私はそう言って、一口ワインを含むと、彼女の立った白い襟を掴んだ。私はキャンディのように甘ったるいオレンジ色をした彼女の唇に吸い付いた。
 虚を突かれて怯んだ華奢な肩が抵抗するのを、私は首筋に手を回して抑えた。桜貝のような二枚の唇が緩んだ。舌の先を唇の裏側に潜り込ませて、左右に滑らすように動かす。
 上下の歯ぐき共にランダムに繰り返す。初対面の人間同士ではあまりやるものではない、サーケン・キス。
「……甘い。ポムウ(リンゴ)みたいな味がするわ」
 彼女は溶けそうな顔をして言った。今にも青い眸がソーダ水になるかと思えた。

「ホントに悪魔みたいな女」
 と、彼女はうわ言みたいに呟きながら、私の乳房に丸く研いだ爪を立てた。減り込む指を厚い脂肪層が押し返す。猫が毛糸玉を弄んでいるような無邪気さがあった。男の長い指でも持て余し気味の半球を、彼女はやすやすと掴む。
 私は彼女の開脚した間に下半身を滑り込ませた。仰向けに両手をついて、ブリッジを作るように。両膝が彼女の肘に触れるか触れないかで、私は彼女の白蝋のように滑らかなお尻に舌先で触れる。確かなわななきが伝わった。
 彼女は私の股間に触れる事は出来ない。それをいい事に、私は舌を伸ばしてクリトリスを転がした。
「ああ。すごくいい、すごくすごおおくぅうう」
 耐え切れずにベッドサイドから片手を下ろし、彼女は私のおまんこを掻き回した。華奢な指だが、流石に男より慣れたものだった。埋没する三本の指と反り返った白い喉の扇情的な眺めを見遣りつつ、顎まで滴る彼女の露汁を舐めた。
 どちらから誘ったわけでもないが、どちらかというと積極的だったのは私だ。彼と同じ顔で女の肢体を持つ人間だと思うと興味が湧いたのだ。それだけだ。
 いや、兄貴がこの女にする以上によがらせてやろうじゃないか、という気もあった。何だか気持ち良くない?一人の女が兄妹二人を翻弄してるみたいで。
 職業は「経営カウンセラー」だと、彼女は言った。だが、その手のフリーな職業の意味するパターンは二つ。誰かパトロンを持った無職であるか、そうでなければ個人営業のサーヴィス業だ。
 爪を切り揃えているのを見て、後者だと見抜いた。今時付け爪もしていないカタギの女は、女医か理美容師か私くらいのものだ。
 それに、コールガールはレズビアンの気がある人間が多い。ちんぽに辟易している所為かどうか判らない。私には想像もつかない。
「締りがいいのねぇ。……ね、私と兄貴とどっちがいい?」
 私の噴出す露に塗れた指を抜き差ししながら、彼女は弾んだ声で質問した。
 私は答えなかった。決まっている。私は別にレズビアンじゃないんだから、ちんぽがいいに決まってる。どんな技巧を持つ指先だって、張型だって生のアレに敵うわけない。最終的に白濁した生温かいスペルマを撒き散らすのを見るのが、私は好きなんだから。
 答える代わりに、私は彼女の白い尻を力強く掴んだ。
「ああううう」
 彼女の猫科動物みたいなしなやかな肢体がうねる。と同時に鼻先の秘孔が窄まって、また広がった途端透明な液体を吐き出した。酸っぱいリンゴのような匂いがする果汁は、私の鼻梁を伝って頬に唇に流れた。
 舌先でその蜜を味わいながら、私は思った。
 たまには女も悪くないかも。


 
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