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THE MIRAGE OF THE SAGES

序章 PRELUDE


 そも、この俗界にはスーヴェニアの城壁の片隅で日向ぼっこしている喝食(かしき)の老人の他には、誰も知り得ない物語がある。
 かの老人は、午後三時頃には市場(バザール)のある通りを五区画ほど北へ離れた町端の噴水の下で、いつものように居眠りをしていた。
 老人は、小一時間ばかり、こっくりこっくりと、丁度太陽の傾く南西の方角へ向き、頭を揺らしていた。
 噴水のある広場には、近所の子供たちや、そこに宿している痩せさらばえた老犬がうろついているのだが、老人はその誰とも口をきいたことがないようだった。誰に話し掛けるでもなく、老人は彼等の様子を一通り眺めてから、又軽い惰眠を貪る。
 そうして、全てのものの片割れである影が背高になる頃には、何処へともなく立ち去るのであった。
 さて、これから私が物語らんとするのは、この粗末な衣服を纏った白い髭の痩せ老人の自慢話であって、歴史の瑣末にも記されない物語なのだ。
 今しばらくは、この話し手の姿を想像して頂きたい。
 スーヴェニアの空は高いと言われる。私が、どれほどの高さだろう、と噴水の傍らに立ち、天を仰いでから又首を戻すと、その老人は既に、私の足許にちょこなんと座っていた。
 それほど、老人はさりげなく現れ、又何気ない存在だったのだ。
 私がポケットから差し出した煙草を、老人はニコリともせず、しかし全身に嬉々とした感情をあらわして噛んだ。そうして、老人はミレリア産のやや苦い噛み煙草を報酬に、次のような物語をしてくれるのだった。



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