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家に帰ると、買っていた金魚が床で干乾びていた。
普段から 度々空へ跳ね飛ぶ癖のある金魚だった。
いつもいつも危なっかしくて、何時こうなっても可笑しくなかった。
――が、一銭は手で金魚をそっと掬って 言った。


「何で死に急ぐねん? 酸素も餌もちゃんとやっとった筈やろ」


                            
 空びたがった金魚 


「てゆーかさぁ〜〜〜…、
 こんな遠い上にガラガラの神社に埋めるのって…どうかと思うけど?」

剣菱が、スコップを支えにしてしゃがみながら、横で合掌している一銭に言った。
土曜日の神社は、二人以外の誰一人として居ない。
目を閉じて合掌したまま、一銭は返す。

「ここはこいつと初めて会った場所なんや!文句あるんか?」
「…つまり〜、祭りかなんかで捕まえたのか;」
「そうや!俺がまだ幼稚園児ん時に金魚掬いで掬った奴や」
「へぇ〜〜〜〜〜、長生きじゃ〜〜〜〜ん★」
「そうやでー10年以上生きとってんからな。でも、」

それから一銭は目を開け、小さく盛り上がった土を見ながら

「まだまだ生きそうな気がしとってん」

と 無表情で言った。
その 小さなピッチャーマウンドの様な丘の下には、
たった今 ひとつの小さな命が埋められたのだ。


剣菱は、無表情のまま変わらない、一銭の横顔を ちらりと見てから言った。


「そりゃ〜、金魚だって 死にたくて飛び跳ねたんじゃないだろ」

「そりゃそうやろうけどさ…魚好きの俺にとっては やっぱ気になるワケよ。
 何か気に入らん事あったんかなぁ、とか
 酸素足りんかったんかなぁ、とかさ」

溜息をつき、一銭は剣菱を見た。
剣菱は頭を掻きながら立ち上がる。
一銭の髪が 軽く靡いた。


「びみょ〜に餓鬼っぽい考え方かもだけど」
「何やねん」


眩しそうに、一銭は剣菱を見上げる。
神社の中の生い茂った木々の枝の合間から日が当たり、
きらきらと輝くと同時に その光は剣菱の姿を闇に隠す。

逆光で見えなくなる剣菱は どんな表情をしているのだろう
一銭は 些か気になったが、立ち上がる気は無かった。


剣菱は 腰に手を当てて背を丸め、一銭の耳元で囁いた。


「金魚の奴、空飛びたかったのかもよ〜?」

煤u―――……は?!」

「そ、そんなびみょ〜な顔されると何も言えなくなるじゃん。
 さっきも言っただろ〜。餓鬼の考え方だってさ」
「いや…別に呆れてるワケとちゃうで」
「――え?」


一銭も、パンパンと服をはたきながら立ち上がる。
手足をぶらぶらとリラックスさせてから 金魚の小さな墓を見下ろして、
金魚と剣菱、両方に語りかける様に 言った。


「そう考えた方が、ええかもしれんな…思って」
「・・・」
「今の環境が嫌で逃げ出そうとしたんやったら、俺的にもかなりヘコみやけどさ、
 こいつに【何かやりたい事】があって飛び出したんやったら、
 ちょっとは気が楽になるやんか」

「ああ〜〜〜…成程ねぇ〜…」


一銭は、左手を腰に当て 軽く背を反らして
日の眩しさを精一杯味わうかのように、
生きている事を体全体で感じるかのように、
空を見上げた。

「やっぱ、生きもん皆ネガティブやったらあかんわ!
 ポジティブに行かなあかん!!!――なっ★」

バシッと 空いた左手で剣菱の背を叩いて、笑う。
剣菱は軽く咳込み、溜息をついてから
ゴスッと一銭にアッパーを喰らわした。


「まあ、そうだろうな。ワケわかんねー機械なんか無しで空を飛ぶってのは、
 人間含めて、飛べない生物の夢だったりするしなー」
「…何 人にアッパー喰らわしといてナチュラルに流してんねん!!
 しかもキモッ!!!お前にしてはマトモな事言っとうし〜!」
「びみょ〜に失敬だな…;俺はいつもマトモだっつのー」

「て、言うかなぁー…」

一銭が、物を言いかけて 左足の膝で剣菱の右足にキックを一発。
それから、続きを言う。


「今にも飛べそうな名前の奴が何言うてんねんな;」

「名前だけじゃん」


剣菱は そう言いながら一銭の腹部にヒジ鉄を喰らわす。
そして、墓の前で喧嘩せんとこっか…と 一銭が急に冷静になる。


「よくさぁ…【死んだら星になる】って言うやん」
「ああ…」
「あれってどうなんやろな?」

剣菱は、スコップで空を指して 答えた。

「俺が思うに〜、星になりたい奴だけなればいい。
 こいつみたいにさ、空飛びたがってた奴…仮だけど。ま、いい!
 こいつみたいにさ、空飛びたがってた奴は 死んでから幾らでも飛ばせて貰えれば良いのに」

「同感。」


スコップは 宙を舞って土に刺さる。
空の方向とは真逆。

二人の周りには 神社の鳩達が集まり出していた。
神社の中では、静かで穏やかな いつもの時間が流れていた。

一銭は 鳩に近付き、何かを拾う。
そして 口を開く。


「まぁ…こいつがホンマに空飛びたかったんかどうかは永久の謎やけど…」
「だけど何だよ」


「飛ばさせてやれんくてごめんな…って感じするわ」


二人の目の前で バサバサと鳩が飛んで行く。
動くはずも無い金魚が埋まる 小さな墓の目の前で、鳩は遠くへ飛んで行く。

一銭はもう一度目を閉じて 手を合わせる。
剣菱も その姿を見て、手を合わせた。




「じゃ、行こか」




一銭は 金魚の墓の上に、何かを置いて 歩き出した。
剣菱は、スコップを担ぎ、慌てて一銭を追う。
そして尋ねる。


「何だアレ? びみょ〜に償いのつもりか?」


一銭は、肩を押さえながら 腕を回して言った。
骨が鳴る音。生き物の音。


「さぁ??俺にもわからんわ」

煤uわかんねーのかよ!?」






――空を飛びたがった金魚の 小さな墓には、
                      鳩の羽根が1本 供えられていた。





 
END 


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さて。初の剣豹小説でしたが…。
どうもわかりにくいネタですみません。
ちなみに、犬丸は関西人ですが大阪人ではないので 微妙に関西弁が違うかも。
神戸弁な一銭さんかもです(汗)

ちなみに、金魚のモデルは
うちの家で飼ってた、10年以上生きていたにも関わらず
1995/01/17:阪神大震災が起こった日に、水槽から飛び出してしまい、
水が出ないので死ぬしかなかった…という可愛そうな龍金デシタ。