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「僕には この世界は狭すぎるよ」

この人らしい台詞だ…。 ただただぼんやりと、セピアはそう思った。


                                             
リベラリズム


ミナモデパートの屋上。

白い二人掛けのベンチから見える空を 雲はゆっくりと流れてゆく。 
春らしい、春だ。


「ミックスオレは嫌いだった? …他に何か買おっか?」


突然 頭を覗き込まれ、小さな驚きの声をあげて 
両手で握り締めたミックスオレの缶に視線を落とす。

「さっきから一口も飲んでないみたいだけど?」
煤uあ……っ;すみません!!ちょっとボーッとしてて…;
 嫌いなんかじゃないんです!!むしろ大好きで……って、え゛ぇ?!」


気付けば、貴方はクスクスと笑っていて。


「そのオーバーリアクション…可愛いねぇセピアちゃんは」
「え…;」

みるみる熱くなってゆく頬の温度が下がればいいのに。
そう思いながら こくこくと少しずつ冷たいミックスオレを喉に無理矢理流し込んだ。


一緒にいると 完全にこの人のペースに巻き込まれている気がする。
照れもせずに さらりと王子様的発言をしたり
私の考えている事など 全てお見通しの様な素振りをしたり。


ミックスオレを口に運ぶ手が止まってしまったのも 完全に貴方のせいです


真っ直ぐなその目が 空の果てまで見据えていて。
その 自信に満ちた横顔が眩しくて
眩暈さえ覚えます


「ダイゴさんは凄いですよね…。この世界が狭いだなんて」
「えっ?」
「やっぱり、色々な所を見て廻って来られてるからですか?」

私の質問に、口元のみ笑顔を浮かべる貴方。

「それは君も同じじゃないか、セピアちゃん」
「あ……」
「君は このホウエン地方で、色々な所を見てきた。トレーナーに出遭い、街に出遭っただろう?」


そう。
私はこのホウエンの 色々な所を見てきた。
どの場所もあたたかで、起こること全てが珍しくて。

そして紛れなく
紛れなく言える事。

この旅が始まっていなかったら、この人にも出逢うことは無かった。


「はい。確かに…色々な所を沢山見てきました。
 【ポケモン】という大切なパートナーも見つかりましたし、
 この 小さなジムバッジが私の足跡になってます……でも、」

両手で ミックスオレの缶をぎゅっと握り直して、一言。


「私には、まだ…この世界は広すぎます」


貴方のその自信に満ちた【チャンピオンの顔】が まともに見られない
貴方にとって この世界は箱庭みたいなものなのかもしれない


「セピアちゃん」


名を呼ばれて 慌てて顔を上げると、
今度は口元だけじゃない
貴方の笑顔がそこにはあって。


――チャンピオンが、私に笑いかけていた。


「君にはそのくらいが丁度いいんだよ、きっと。」


貴方の手が 私の髪を梳かした。また 熱くなる頬の温度。


「君にはこれからも、この世界を隅々まで旅してほしい。
 君にはまだまだ時間が合って、これから出遭うべき人も 数え切れない程いる。
 だから……、世界が広いと感じるくらいが丁度いいんだよ」

大きな手が髪を滑る

「ダイゴさん…ダイゴさんはもう、この世界の全てをご覧になったんですか?」
「いや、そんな事は無いよ」

大きな手が、はたと止まって。

「世界には 端っこは無いけど、限りはある。
 僕はいつまでも旅をしていたい。…限りのある世界なんて嫌だ。
 死ぬまでにこの世界を全部見てみたいと思う反面、
 この世界を全て知ってしまったら、つまらないだろうとも思う。
 ―――だから、僕はこう思うことにしてるんだよ。」

「【世界は狭すぎる】…?」
「そうそう♪」


……。


何て ささやかで 何て雄大なんだろう。
私もこの人のようになりたい。

世界を もっと見たいと思った。


「素敵な考えですね…」
「…有難う★そう言ってくれた人は初めてだ」

雲が、また流れて行った

「私も…いつか【世界は狭い】と思えるようになるでしょうか?」
「それは君次第だよ、セピアちゃん♪」


今ならもう、【チャンピオンの顔】を真っ直ぐ見ることができるはず。
ミックスオレは、もう冷たくはないけれど…。
私の体温を、冷やして。


「旅はいいもんだよね〜」
「…そうですね」


何となく 思った。

ああ この人はもうすぐ、何処か遠い所へ旅立ってしまうんじゃないかと。
――同じ【トレーナー】として何かを感じた。

「…セピアちゃん?」

気付けば 私は貴方の右肩に寄りかかっていて。
気付けば 思わぬ言葉が口から零れ落ちていた。


「しばらく…jこうしてていいですか?」


貴方のその肩に、身をゆだねてもいいですか
少しでも 貴方の傍にいていいですか

黙ったまま、もたれた方の肩からするりと手が伸びてきて 私を抱く。
鼓動は加速度を増すばかり。

それでも 良かった。







世界は私にとって ひたすら広くて。
私はポケモンと一緒に 旅を続けてゆく。


この肩を抱く、貴方の腕の中は 世界の広さに比べたら、トランプ1枚くらいの広さかもしれない。
でも、そのトランプ1枚くらいの広さの世界から 私は抜け出せずにいる。


今、足をつけている この広い世界の事も知りたいし、
このトランプ1枚くらいの広さの世界の事も知りたい。








どちらの世界も知りたいと思う私は、 わがままな旅人なのでしょうか








*end*

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あとがき

1作目がちと切な気な話だったので、無理矢理にでもほのぼの話にしようとして撃沈。
ほのぼのなダイセピ(ダイハル)が読みたい方は他のサイトさんのSSを読まれた方が宜しいかと;


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