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湧き上がる歓声と 興奮する実況解説者の声。
ブラウン管には 観客席へと勢いよく飛んで行く白球と
呆然とそれを眺めるピッチャーの姿があった。




                     赤い川の流れる音




本日初のホームランに ワンタンは冷やし中華の箸を止めた。
紅印はエアコンのリモコンの手を止めた。
今夏最高とも言えるであろう、見事な場外ホームランが決まった。



「あいやー!!すっごいネ!」
「そうね」
「朕、この【キィィン】っていう音 好きアル」



にこにこしながら、冷やし中華の箸がまた動き出す。
テレビのスピーカーからは、まだ歓声が聞こえている。
紅印はエアコンのリモコンをテーブルの上に置いて 言う。



「あたしも好きよ。あ、でも」
「何ネ?」
「マウンドにピッチャーが立つでしょ、それまでは煩かった観客が
 ピッチャーが球を投げた瞬間だけ静かになるじゃない?
 あの瞬間が 一番好き」



それ、音じゃないヨー  と ワンタンは笑った。



いつの間にか、冷やし中華の皿は空になっていて、
ブラウン管の中も いつの間にか生ビールのCMに変わっていた。



「他にも好きな音たくさんあるヨー」



「例えば?」
「例えば、学校帰りのラーメン屋に入った時のカランカランって音。
 風で木の葉が擦れ合うのもイイネ。
 鈴のリンリン・シャンシャンっていう音も。
 缶ジュース開けた瞬間も好きで、鳥の鳴き声の大好きアル!それと…」



紅印は 頬杖をついて呆れたように笑った。
ワンタンはその姿を見て頬を膨らませた。



「な、何ネ?!何か可笑しいカ!?」
「別にぃ〜。」
「紅印、ヤな感じね!!まだ、朕の一番好きな音言ってないのに」
「はいはい、聞いてあげるわよ」
















きゅっ。















そう言った後、ワンタンに手首を掴まれ 紅印は目を見開いた。
器の上に重ねてあった 2本の箸が、カラン と音を立てる。

ワンタンは 紅印の手首にぴったりと耳を当てて微笑む。



「朕は、紅印の鼓動が好きアルよ。」


「あと、血の通う音が 好きアルよ。」



ば、馬鹿言ってんじゃないわよ!!あんたってホント馬鹿!!
赤面しながら、必死で叫ぶ紅印の手首を ワンタンは離そうとしない。
手を振り離そうとする紅印も参ってしまった。

へらへらと笑って、ずっと耳をぴったりと当てられている。



「あいやー!何かリズムが速くなったヨ!」



紅印は 空いている方の手で拳骨を作り、ワンタンの頭を一発殴った。
そんな事をしている間に、ブラウン管の中の試合は終わっていて。



先程ホームランを打った選手が マイクを片手に
”打った瞬間の【キィィン】って音が好きで…”と、

大勢の観客の前で 笑顔で話していた。