●明日の天気。●
| 「うわ・・・すっかり遅くなっちゃったッス・・・!」 もう野球部の者は全員帰ってしまった。 子津は 夜の7時まで、ずっとグランドのトンボがけをしていた。 彼は、駅の近くを一生懸命走っている。 「…うう…別に置いていかなくたって…!皆ひどいっす〜!」 そんな事を言っている間に、信号が点滅して 赤になる。 彼はどれだけ急いでいても、信号というものをすることがない。 勿論、踏み切りでも カンカンと音が鳴り始めた時点で足を止め、 電車が通過し終えるまで待つ。そういう人間なのだ。 駅の周りには、商店街が広がっている。 商店街の中を猛ダッシュで駆け抜けている途中、見慣れた顔を見つける。 「あれ・・・・・・・・・?」 見慣れた人物を見つけたのは、割とと新しい電気屋の前。 こちらの存在には気づいていないようだった。 【見慣れた人物】というのは、 野球部の女子マネージャー猫湖檜。 彼女のふわふわとした髪の毛は、何処にいても目立つ。 何をしているのかと思えば、電気屋の中のテレビを ガラス越しに眺めていた。 「…猫湖さん、何やってるんすか?こんな遅くに独りで……。女性の一人歩きは危険ッス!」 「あ…子津チュ…」 近づいて話し掛けて、彼女の見ているテレビ番組に目をやった。 ブラウン管に映っていたのは、 ごくごく普通の天気予報。 明日は降水量がどーたらこーたら、明日の花粉情報が云々。 そして一週間の予報に。 「………天気予報、…ッスか?」 「ねずっチュも見といた方がいい…かも」 そう言って彼女はじー・・・と画面を眺め続ける。 ――明日の天気は晴れ時々曇り・・・。所によってはにわか雨が降る場所もあるでしょう。 明日の最高気温は20℃。降水確率は10%。週間の予報です。週末は天気がグズつきますが、 来週になるとそれも治まり、良いお天気になるでしょう。 「……猫湖さん、明日何かあるんすか?出かけるとか…洗濯物の乾きが気になるとか…」 何故彼女がこんな所で天気予報を見ているのかが気になって聞いてみた。 「子津チュはいつも天気予報見ないの………?」 「えっ、見るっすけど…いっつも1日の始まりに見るんスよ。何か前日じゃ信用出来なくて…;」 そう答えると、こんな返事が返ってきた。 「天気予報は、絶対前の日に見なくちゃ駄目……かも」 「へ?」 「どうしてっすか……??」 子津がそう訊ねた瞬間、強い風が吹いた。 電気屋の閉まりかけのシャッターがガタガタと音を立てる。 そして風が止んでから、 子津の方を見てフワフワ髪の檜は答えた。 「―――あ、明日が絶対来るって感じがするから……かも…」 そう言った彼女の顔は赤くて。 何だかこっちまで恥ずかしくなってしまった。 「……そ、そんな事…僕は1回も考えた事無かったっす…。 死なない限りは、明日も明後日も来ると思ってたっすから…」 「…占いなら【明日はどうなるか】が解かるんだけど… 【明日が絶対来る】とは占いでは解からない……かも」 「そ、そうッスよね…!?何だか凄い感心しちゃいますよ!猫湖さん!有難うッス!」 「あれ…子津チュ、何でそこで【アリガトウ】…なの?」 「えっ;…僕は明日が来るのって当たり前の事だと思って過ごしてたから、 毎日を平凡に暮らしてたなぁ…と思って。 でもって、でもって猫湖さんにいいコト教わったなって思ったッス!だからお礼を言ったんスよv」 子津は目をキラキラと輝かせながらそう言った。 そんな子津を見ながら、 「そう・・・でも、【死なない限りは】じゃ駄目……かも」 と 檜が口を開いた。 煤uええっ?」 「これは私の中だけなんだけど……【生きてる限りは】の方が響きとして良いかも」 「・・・・・・」 「かも///」 「・・・・・・・・・!」 5秒後。 子津は尊敬の眼差しで檜を眺めていた。 「すすすすす、凄いッスよ!!猫湖さん!またしても!!!! あ〜もう尊敬ッス!!ポエマーですねっ☆青春ッス!!! 確かにそっすよね【死なない限りは】って……何だか儚げで駄目ッスよね? ……よっし!これから僕は毎日、天気予報見るっすよ!勿論次の日の予報を。 それで、【生きてる限りは】明日が来るんだって 天気予報で確かめるッス!」 「ねずっちゅ、ちょっとハリキリすぎかも……・;」 苦笑する檜に、子津が言った。 純粋すぎる子津を見ていると、何だか苦笑するしかなかった。 「さてさて、今日は何だか得した気分っすv 今は…って、え?!7時32分!!? 気づいたらこんな時間になってたッス! そうだ…猫湖さん!僕のせいで…こんなに遅くなっちゃって…」 「えっ?」 「きっと家の方が心配してるっすよ!本当ごめんなさいっす! あぁぁぁ、何て事をしてしまったんスか僕は?!」 「ね…子津チュ……最初から此処にいたのは私…かも;」 「そ、そうっすけど…!とにかく僕が質問しまくったからこんなに…」 子津がオロオロしながら喋っている途中で、檜はクスっと笑って 彼に言った。 「あ…じゃあ、子津チュに家まで送って行ってもらおっと……かも… 猫湖家の門限はもう1時間32分前に破っちゃってるから…」 「えぇぇぇっ!!!!? そ、それは…非常にヤバイっすよ!!ってゆーか僕が来る前にもう破ってたんスか?!; しかもそんなに普通な口調で…いいんスか!?;」 「別にいいかも」 「駄目ッスよー!!!猫湖さん、家何処なんスか!?ぼ、僕が送って行くっすから!!」 「あっち………かも」 檜は小さな手で 自分の家の方向を指差した。 帰る方向は 子津と同じ。 「分かりました!【そこを曲がる】とか、いろいろ教えて下さい!じゃ、走るッスよ!!」 そう言って、子津はふわふわ髪の猫湖檜の右手をきゅっと掴み、 彼女を引き摺らない程度に走り出した。 檜は子津の、トンボがけで豆だらけの手をぎゅっと握りながら、 ふわふわの髪を靡かせて 必死で付いて行った。 ―――――電気屋のシャッターが 閉まり始めた。 <<back +top+ material>> |
●あとがき●
1・2・3回目の改版でございます。
前よりも猫子色が強くなって、より子津チュが阿呆になりました(笑)
私は猫子も子猫も好きですが、
精神的に檜ちゃんが強い方が猫子…という感じでしょうか。